6:午後三時のあなたはみにくい

 

物理の授業は教える自分でも退屈だとは思う。
黒板をフルに使って解説をして、生徒を見れば半分が寝こけていた。午後三時、食欲も満たされ、退屈な授業をBGMに一寝入り。自分自身も学生の頃やっていたことである。一部分の真面目な生徒の為にも気にせず解説を続ける。
いつもいる筈の顔が居ない。相手が相手なだけに瀬戸口自身も授業に集中できずにいた。

ひとしきり解説を終えて、配布したプリントを解く時間を与える。寝ている連中はそのまま寝こけているし、真面目な生徒は黒板の例を見ながら一生懸命解いている。気だるい、午後三時半を過ぎた辺り。
教壇から見て真ん中、後ろから二番目。藪水高校生徒会長、望月の席。いつもは真面目に解いているか気だるそうに窓辺を見つめているか寝ているか、こちらをじっと見据えているか。
一枚余分に手元に余ったプリントに代わりに名前を書いてやり、今朝登校時にすれ違った事を思い出す。体調を崩すようなタマではない。きっとずる休みだろう。


好意というわけでもなかった。口説かれてそれに応えて、快感を覚えてしまってから、彼から抜け出せなくなっただけ。
嫉妬もしない。彼の周りにはいくつもの華やかな噂が付きまとっていて、それに対して何かを思った事は一つも無いし今後もそうはならないと思う。
しつこく付きまとっているように見えるのだろう、望月は何よりもそれを嫌がる。現段階で鬱陶しそうに対応される事が多いのも知っている。辞める気が無いのは、迫るのを辞めて彼の自分への評価が上がったとして、それと得られる快感を天秤に掛けたときに後者が圧倒的に勝るからだった。第一、彼に嫌われる事は無いだろうという、根拠のない自信すらある。
そして、分かっているのだ。


(自分が一番面倒な性格だって事ぐらい、そんな事ぐらいわかっている)


「望月さん。放課後、物理準備室に来てください」





気だるい昼下がりの、ほどけないひとたち。

もちぐみ