理科室の硫酸少女

 

「死にたくなかった……死にたくなかった……」


今日もまた。複数の男子に呼び出される。憂鬱だった。
理科室の空気は淀んでいて冷たくて、不気味な気がする。これからなにをされるかわかっているからなおさらだ。
私は所謂、いじめられっ子と言う立場で。根暗な性格で友達なんていなかった。
そうやって一人でいれば標的になるのは目に見えていた。
見るからに素行のよろしくない男子が私を囲んで初めて罵声を浴びせてきたのはクラス替えが終わってすぐのことだ。
行きたくない。行きたくないけれど、逆らったらもっと酷い目に合わされる。
いや、もうこれ以上どん底もないかもしれない。だって私はもう。
もう……。

なんでレイプしたのに死んでねーの?とあからさまに不機嫌に訪ねてきたのは、この中でも主導権を握っている男子だ。
そして、私の処女を奪った男だ。この際、そんなことはもうどうでもいいや。
レイプしたら自殺するってのがお決まりじゃん、なんでお前死なねーの?うぜーのに。
ほら早く死ねよ、見ててやるから死ねって。とにかく雑で酷な言葉が大きな声で私を攻撃する。
もう慣れた。慣れちゃったな。早く終わらないかな。俯いていた私の目に入るように、実験で使う容器が差し出される。
硫酸だから、飲んで。これ飲んで早く死んで。どうなるのか見てみたいなぁ。
静かで低くて厭らしい笑みを含んだ台詞に、周りが静まり返った。
一体、今どうなってるの?
私はこれを飲まなくちゃいけないの?
そんなことしたら死んじゃうわよ?
どうしてそんなに私を殺したいの?
私は、死にたくない。
声に出したのかもしれない。譲れない願望がこびりついたようにちらつく。
途端、私の髪を主犯格が引っ張りあげた。悪魔のような顔をして怒りを露わにしている。

熱い。
熱い、痛い、痛い痛い痛い熱い熱い痛い痛い熱い痛い痛い痛い痛い痛い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!
顔の皮膚が剥がされる、みたいな、右目が潰れた、みたいな。
凌辱のように服を裂かれる、そして体中に、一瞬冷たくて、だけど、抉られていくような。
絶叫した。いや、したんだろうか。こんな恐ろしい叫び声を私が。
やめて、やめて痛いの、熱い、苦しい、怖い、怖い嫌だ。助けて。
のど やけ


最後まで腹の立つ奴だった。あんなに喚かれたら誰か来るかもしれなかった。
だから容器に残っていた硫酸を五月蝿い口の中に入れてやったんだ。ああ、ようやく黙った。
さてまだ何個か硫酸は残っている。いや、他にも使えるものがあるんじゃないか?
大人しくなったがまだ死んでないだろ。死ぬまでやるんだ。
殺すんだ。殺してやる。こいつは殺して良い奴だ、そうだろお前ら。
なに黙ってんだよお前らも共犯だろさっさとしろよ。殺すの手伝えよ。


藪乃坂水橋高等学校の理科室で若子田チヱさんの遺体が発見されました。
遺体には大量の硫酸を浴びせられた後があり、直接の死因は硫酸を飲んだためと見られています。
彼女をいじめていた男子等の犯行とされ、主犯格の少年は容疑を肯定しています。

伊式十三丸