校庭の血塗れ少女

 

「私の最期の姿を見てもらえるの、幸せよ」


線香の匂いがする教師だと、彼は評判になっていた。
死んでしまった女生徒の家に訪ねて、仏壇の前で惜しむように目を伏せる仕草が、とても良いらしい。
元々、痩せ過ぎてはいるけれど、鼻目立ちは整っている先生だから。
丁度年齢の合うお母さん方が騒ぐのも無理は無い。

嗚呼、よくそんなことが出来るよね先生。
女子生徒が自殺したのは、誰のせいだと思ってるの?
女子生徒が苦しんだのは、誰のせいだと思ってるの?
ねぇ、レイプ魔の※※先生!!
嗚呼、安心してね先生。そんな苦い顔しないで。
私誰にも言わないよ。二人だけの秘密だよぉ。
私先生のこと大好きなんだから。だから、私を選んでくれたんでしょう?
死ななかったのが計算外だった?何言ってるのよ。
私ずっと先生の体温を覚えてる。甘くて優しくて温かかったのを覚えてる。
あんなに幸せだったこと生まれて初めてなの。
大好きな先生。一番大好きな男性。
嗚呼、今日もお線香上げに行くの?いいなぁ先生に構ってもらえて。
こんなに好きなのに。どうして私を見てくれないの。
先生に怯えて死んでいった子は追いかけていく癖に、
先生を愛してついてくる子からは逃げるの?
なんでなんで、どうして、ずるい。
死んじゃったくせに先生に(偽りでも)心配されるなんてずるい。
私のところにも来てくれないかな、先生。
……死ななきゃ駄目かな?

作戦はこんな感じ。
先生を手紙で呼び出して、私はそこに行かない。
先生はきっと来る。そういう性格だから。
誰も来ないことに呆れて、溜め息をついて、廊下に出たときが勝負だ。
そうしたら校庭に一人で立っている私を見つけるから。
目が、合うから。
さぁ、来た。さぁ、私を、見て!!
後ろ手に持っていた包丁を取り出し、一瞬斜陽に煌めかせる。
その刃を腹に突立て、嗚呼痛みが広がっていく。
あとはもう出鱈目に体を傷付けていった。
見てくれているのね先生、先生!!
私今とっても幸せよ、体が冷たくなっちゃう、でもずっと忘れない。
忘れないから、先生、私にもお線香頂戴。


どこまでも鬱陶しい子だ。しかし教師という立場上、平等に接しないわけには行かないな。
勘違いした女は面倒臭いものだ。もう、あんなことしたくない。
……高校を卒業したら抑え込むのに結婚してやっても良かったよ。
先を急いで悪い子だ。駆け引きは、僕の勝ち。


藪乃坂水橋高等学校の校庭で在学の北渚さんが血だらけで倒れているのが発見されました。
病院に運ばれましたが、死亡が確認されました。
凶器は手に持っていた包丁とされ、自殺と見られています。

伊式十三丸